最も進化したディーゼルエンジン用燃料噴射装置のひとつで、蓄圧パイプ(コモンレール)に高圧の燃料を蓄えておき、噴射ノズルで燃料噴射率やタイミングを制御することにより、高圧かつ1サイクルあたり複数回の燃料噴射を可能にしたシステムの総称。
ディーゼルエンジンの排ガス規制強化に対応するには、燃料噴射圧力の高圧化と、噴射率および噴射タイミングの精密な制御が要求される。
噴射圧を高めれば、燃料噴霧はより微細化すると同時に、噴霧速度が速くなって空気を巻き込みやすくなり、完全燃焼に近づいてPMが低減できる。一方、効率の高い燃焼は温度も高く、高温になるほど生成しやすいNOxの低減には逆行してしまう。そこで、圧縮行程の初期段階で微量の燃料を噴射し、燃焼をゆっくりと開始させてから主噴射を行えば、温度上昇が抑えられてNOxが低減できる。
さらに、目詰まりしたDPFの再生や、飽和したNOx吸蔵触媒の還元のために、排気行程での燃料噴射も求められるようになった。
コモンレール式以前の噴射装置は、4〜6気筒までは分配型燃料噴射ポンプが、6気筒以上には列型噴射ポンプが主に使用されていたが、これらはいずれも、噴射率や噴射タイミングを噴射ポンプによって制御していた。
噴射ノズルは単純な受動弁で、開弁圧はあらかじめセットされたスプリングの荷重で決まっており、噴射ポンプによって加圧された燃料が流れてくると、燃料の圧力で弁が押し開けられる構造だった。
噴射率は、噴射ポンプの“逃がし弁(スピルポート)”を開くタイミングで制御していたため、1サイクル当たりの噴射回数も1回に限られており、制御精度も数百分の1秒単位。電子制御化によって改善は見られたものの、噴射圧がエンジン回転数に依存してしまうため、低回転域では思うように噴射圧が上げられないという欠点を持っていた。
これらの欠点を克服するため、燃料ポンプと噴射ノズルに機能を分担させたのが、コモンレール式燃料噴射装置である。
コモンレール式燃料噴射装置では、燃料ポンプは燃料の加圧だけを受け持ち、高圧の燃料を蓄圧パイプ(コモンレール)に圧送する。噴射ノズルは開弁制御機構を持っており、必要なときに必要な量だけ燃料を噴射することができる。
燃料加圧と噴射率制御の役割を分けるというアイデアは古くからあり、実際に1980年代に普及したガソリンエンジンの電子制御燃料噴射装置では、すでに役割分担が行われている。ディーゼルエンジンでの実用化が遅れたのは、要求される燃料噴射圧力の高さ。ガソリンエンジンの場合、吸気管内噴射なら0.3〜0.5MPa、直噴でも10MPa程度だが、ディーゼルの場合100MPa以上が要求されるため、ポンプや噴射ノズルに高い加工精度が要求され、商品化に耐えるものができなかったのだ。
世界で初めてコモンレール式燃料噴射装置を商品化したのは、日本の(株)デンソー。1995年に日野の中型トラック“ライジングレンジャー”に搭載された。
“第1世代”と呼ばれるこのシステムは、最大噴射圧力120MPa。噴射率制御はソレノイド(電磁石)で行われ、1サイクルあたり、パイロット噴射とメイン噴射の2回の燃料噴射が可能。噴射間隔は1万分の7秒を実現していた。
その後、1997年にドイツのボッシュ社が噴射圧力135MPaのシステムを乗用車用に商品化すると、開発競争が加速。デンソーは噴射圧力を145MPaまで高めたものを乗用車用に実用化し、トヨタがアベンシスに搭載した。
'02年になるとデンソーは、アウターカム式サプライポンプによって噴射圧を180MPaまで高め、高応答ソレノイドによって1サイクルあたり5回の噴射を可能にした“第2世代”システムを実用化。噴射間隔は1万分の4秒にまで短縮された。
さらに'05年には、ソレノイドに代わり、応答性の高いピエゾ素子が噴射制御に採用される。通電すると瞬時に膨張する特性を持つこの素子によって、噴射間隔は1万分の1秒を実現。より高精度の噴射制御が可能となり、ポテンシャル(潜在能力)としては1サイクルあたり7回の噴射を可能にしている。
一方でソレノイドも高応答化が図られており、ボッシュは高速スイッチング制御を導入することにより、ピエゾ式に遜色の無い応答性を確保するCRS2.5システムを実用化している。
現在、開発中の“第3世代”システムは、噴射圧を200〜250MPaまで高圧化。220MPa以上の加圧はサプライポンプだけでは実現不可能なため、内部増圧機構を備えた噴射ノズルで2段加圧するシステムが必須となる。
コモンレール式燃料噴射装置は、今やディーゼルエンジンにとって必須の技術となっているが、コスト高になるのが難点。噴射ノズル1本の値段は、第2世代のもので「ガソリンエンジンの数10倍」と言われており、ディーゼルエンジンのコストを押し上げる一因となっている。