またラリー自体は 昨年と同様にトヨタスタジアムを拠点に行われたが
一番の違いはスタジアムの中にスーパースペシャルステージが設置された事だった。
普段はサッカースタジアムとして使用している場所なのだが
天然芝を全部剥ぎその後に舗装を全面に轢きその上にコースを作った。
世界戦ではよくみる光景なのだが日本では札幌ドームで行われて以来13 年ぶりの設営となった。
ただ 今回は WRC2車両の輸送費の援助が主催者から無かったため昨年よりもエントリーが少なかった事が残念だった。
それでも ラリー1 車両が9 台も出場したことで
ラリー自体は大きな盛り上がりを見せていた。
まず ラリーウィークの月曜から道の下見(RECCE)が始まった。
普通は2 日間なのだが RALLY JAPAN は走る距離が長いため3 日間と長い日程を予定していた。(北は岐阜の中津川から東は新城市まで)
この3 日間が大変で朝の5 時起きから始まり 1 日500kmほどを走ってからホテルに戻り車内映像を確認するという気力も体力もかなり使う3 日間となった。
そして 木曜から正式にラリーがスタートするのだが
今年も木曜の夜からスーパースペシャルステージが行われた。
去年は この木曜のステージでクラッシュしそのまま病院送りとなったため 悲しい思いもしたが、今年はスタジアムの中なのでその心配も無く走ることが出来た。
しかし このコースがかなりの難所でジャンプは普通の車で走れないほどだった。
そのためここでフロントを強打して車両を壊すクルーも何台かでてしまった。
私達の車両もフロントを強打してしまいダメージを負ってしまった。
そして2 日目の朝。
かなりの雨量があり コースがどうなっているのか?と心配するほどだった。
サスペンションセッティングをWET に変更し タイヤもWET タイヤに履き替えスタートした。
しかし 最初のタイムコントロールでメカニックの作業遅れにより10 秒のペナルティーが課されてしまった。
メカニック同士の意思疎通の甘さから起きた事だったため今後このような事が無いように
事前に シミュレーションして完璧を期したいと思う。
そして 最初のステージではやはり大きなクラッシュが多発しキャンセルとなった。
マニファクチャラーの車両2 台が同じ所でクラッシュし沢に転落してしまった。
また トヨタの勝田選手も同じコーナーでクラッシュしてフロントを大破してしまった。
幸い クルーに怪我は無かったが やはり天候が悪く狭い道では
危険度が飛躍的に上がることが分かった。
このため 私達クルーはそのままスピードを抑えて
ステージを抜けて次のステージに向かった。
やはり ここもかなりの雨量で
道はどこもかしこも水が流れていて常にハイドロプレーニング現象が起きて
いつコースアウトしてもおかしくない状況だった。
ただ 走りきるとタイムも悪くなく
皆危険を察知し上手に回避しながら走っていると思われた。
次のSS4は 悪天候によりヘリコプターが飛べないためキャンセルとなった。
WRCの場合は クラッシュした時に 直ぐに救護できるようにヘリコプターが競技車の上を飛んで確認しないといけないルールになっているため
それが飛べない場合はSSをスタートしない事になっているのだ。
この辺の安全への意識は世界選手権レベルのラリーなので仕方ないのだが・・・
午前のループが終わり午後のループ用にタイヤを変えてスタートした。
SS5でまだ同じように雨が酷くかなり警戒しながら走らないとダメな状況だった。
しかしSS6では 路面の水も無くなり WETタイヤでは熱ダレが起きてしまうような状況になってきた。
このような状況だと車両の重量が効いてきてタイヤの落ち込みも早くなってくる。
タイム的にもJRcar1クラスのトップタイムは取れるのだが
WRC2の車両と比較するとキロ2 秒以上の差がついてしまった。
午後のループでは タイヤの熱ダレに苦戦してしまい
タイムも平凡なものとなってしまった。
そして この日の最後も トヨタスタジアムでの
スーパースペシャルステージが最終ステージとなっていた。
ここではトップを走っていた勝田選手のWRC2車両が
コンクリートウォールにぶつかりリタイヤとなった。
そのため JR car1クラスでトップになる事が出来た。
最終サービスでは 次の日の天気を考慮し
DRY にセッティング変更してサービスを後にした。
土曜日の朝は曇り。
路面は 森の中はWET だったが
ほとんどは少し濡れているぐらいの状況だと判断しタイヤはDRY の
柔らかいタイプを選択してスタートした。
最初のSS9でWRC2クラスの車両とキロ1 秒半程度まで差が詰まる走りが出来
車両のセットとタイヤが少しマッチしたことを感じることが出来た。
しかし SS9 の途中から オルタネーターが充電していないことが発覚した。
そのためエンジンがストップしてリタイヤする事となった。
私達クルーもかなり悔しく
やっと車の調子が良くなって来ただけに チーム全体が落胆してしまった。
そして最終日。
夜には 雨が雪に変わったと情報が入ったのだが
それほどの積雪ではないだろうと考えていた。
しかし 実際コースの標高の高い部分では5cmほどの積雪があり
それが 朝方日の出と共に溶け出し路面は完全にWET 状態。
また 積雪と同時に落ち葉もかなりの量が落ちて
路面は下見の時と全く違う状況となっていた。
しかし チームとしては 路面がそれほどWET だと考えず 2 日目と同じような状況で
森の中だけがWET で他は少し濡れている程度と判断した。
1日目の WET タイヤで行き途中で熱ダレが起きて
全く走れなくなるよりは良いだろうとの判断だった。
そのため DRY タイヤの柔らかいタイプを選んで履いた。
また車のセッテイングもDRY に近い状況でスタートしたのだが
実際は2 日目の状況とはかけ離れた状態だった。
1本目はまだそれほど濡れていなかったのだが
2本目からは 泥と雨と落ち葉で雪の上を走っているかのような状況だった。
そのためかなり慎重に走ってなんとかゴールできるようにしていた。
2 本目までは車速も遅く何とかできたのだが
3 本目SS で160 キロから80 キロ程度まで減速するコーナーで
落としきれず落ち葉に乗りそのまま外側の溝に落ちてしまった。
この時運悪く 外側に大きな石がありそれにフロントタイヤが当たり外れてしまった。
そのまま広い所まで 車を運びリタイヤとなってしまった。
タイヤ選択が難しい中、マニュファクチャラーチームのタイヤ選択を参考にし
本当はウェットタイヤでいかなければならなかった。
ガズーレーシングのチーム等は
マニュファクチャラーチームの情報がちゃんとチーム内共有されていて
ウェットタイヤを装着していた。
今回 多くのSUBARU ファンが会場に来て下さり
またギャラリーステージや道路沿いでもSUBARU の旗を振ってくださる方々も多く
これほど多くの方々に応援されながら走りきれなったことは
悔しく情けなくて今まで一番酷い思いをしたラリーだったように感じます。
新型という事もありますが
もっといろいろなテストや対策を行わないと
毎回悔しい思いをしながら走るのはチームとしてもかなり苦しい状況になります。
今年は チームの事故から始まり
2 戦の欠場で出鼻をくじかれ
テストも出来ないままラリーを行い
車を速くするという行為ではなく壊れないようにすることがメインだったように感じます。
新型という事もあり信頼性が担保できていないというのが一番の問題点でもあります。
今回のオルタネーターの件もそうですが 普段壊れそうにない部品が壊れてしまうと
それ以外の部品チェックに割ける人力と時間が無くなってしまいます。
これから この新型S4 を速くて強い車両に変化させるには やはりSTI とのタッグを組み
ニュルプルクニンク等で培ったノウハウ等を入れる必要を強く感じました。
来年は早々に熟成を重ね SUBARU ファンの方々がラリーを楽しみにしてくれるようにチームも一丸となって戦っていきますので
各スポンサー様およびメーカーの方々の暖かいご支援をお願いいたします。
1年間ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。
アライモータースポーツ 新井敏弘